【通所リハビリ苦情対応】管理職の動き方…あらゆるトラブルを乗り越える行動指針

通所リハビリの現場では、日々さまざまなトラブルが発生する可能性があります。利用者さんやご家族からの苦情、予期せぬ交通事故、転倒事故、急な体調不良、そして様々なハラスメントなど、管理職として矢面に立ち、迅速かつ適切な対応が求められます。
- 正確な状況把握
- 丁寧な対話
- 上長への報告
- スタッフフォローアップ
- 振り返りと記録
こうした状況で、ただ闇雲に対応するのではなく、体系的な行動指針を持つことが重要です。今回は、トラブル発生時に管理職がどのように動き、解決に導くべきかについて解説します。

利用者様のご家族が相談から
公的な窓口から相談が入ったこともありました。
10年以上、苦情相談の窓口もしている観点から、トラブル対応のポイントを解説します!
トラブル対応のポイント
何よりも「状況の把握」を最優先に
トラブル発生の報を受けたら、まず何よりも正確な状況把握に努めます。これは、後の対応のすべてを左右する最も重要なステップです。
- いつ、どこで、何が起きたのか?:発生日時、場所、具体的な事象を特定します。
- 誰が関わっているのか?:利用者さん、ご家族、関係者、関わったスタッフなどを明確にします。
- 経緯は?:事象が発生するまでの流れ、その時の状況を時系列で整理します。
- 現在の状況は?:事故であれば、負傷の有無や程度、医療機関での処置状況。苦情であれば、相手の具体的な不満内容、感情の度合いなどを確認します。
- 誰が目撃していたか?:目撃者がいれば、その証言も聞きます。
このとき、感情的にならず、客観的な事実のみを集めるよう心がけましょう。スタッフからの報告も、感情や憶測を交えずに事実を伝えるよう促すことが大切です。

報告してくれるスタッフも感情的になっていることがあります。
初発の情報でははっきりしないことも多いです。客観的で正確な情報を集めて対応の方向性を考えていきます。
対話と意向確認を丁寧に
ここからが、トラブル解決に向けた具体的な行動です。管理職として矢面に立つ際に意識すべきポイントは以下の通りです。
相手先への謝罪(状況による)
まずは、相手の感情に寄り添うことが重要です。事故や不手際があった場合は、誠意を込めて「ご迷惑、ご心配をおかけしたこと」に対して謝意を伝えます。ただし、この段階で安易に責任を認めるような発言は避け、事実に基づいた冷静な謝罪にとどめます。
対話:傾聴と共感を意識
相手の言い分を最後までじっくりと傾聴します。途中で遮らず、まずは相手の気持ちを受け止める姿勢が重要です。感情的な発言であっても、そこにある「不満」「不安」「怒り」といった感情に寄り添い、共感を示すことで、相手の興奮を和らげることができます。

研修でも聞いた話ですが
電話でかかってきたら、こちらから掛け直すといいです。
お互いに一呼吸おけるのは気持ちの整理に効果的だと思います。
よく使う言葉は
「ゆっくり話を聞きたいので、場所を変えたいです。こちらから掛け直させてもらえませんか?」
と聞いています。
意向の確認:具体的な解決策を探る
相手の話しが終わったら、「どのような状態になれば、ご安心いただけますでしょうか」「どのような解決策をお望みでしょうか」など、具体的な意向を丁寧に確認します。ここでの質問は、あくまで相手の要望を把握するためのものであり、すぐにそれが実現可能か否かの判断はしません。相手の意向を正確に理解することで、実現可能な解決策を検討する手がかりとなります。

話を聞くポイントは
- 話を聞いてあげること(コレ大事‼️)
- 相手がなにを求めているのかを読み取る
自分の気持ちを吐き出したい方もいます。話を聞くこと自体が解決になることもあります。
相手が求めることが具体的ではない場合は、こちらから提案することもあります。例えば
「改めて状況を調べて、再発防止に努めます。その際にまた連絡させていただいてもよろしいでしょうか?」
「上長への報告」は迅速かつ的確に
状況を把握したら、速やかに上長へ報告します。
報告の際は、以下の点を盛り込むと良いでしょう。
- 発生日時と場所
- トラブルの内容と概要
- 関わっている人物
- これまでの対応状況(初動対応、安全確保など)
- 現在の状況
- 今後の対応方針案(あれば)
報告は、電話や対面が基本ですが、簡潔にまとめたメールなどを補助的に使うのも効果的です。上長は、事業所全体の状況を把握し、必要に応じてより上位の意思決定や外部との連携を指示する立場です。迅速な報告が、適切な判断とサポートにつながります。

報告回数は最低でも2回
状況把握後
問題解決後
スピード感のいる報告は口頭・電話でする
複雑もしくは状況を整理したときは書面にまとめています
「スタッフへのフォローアップ」を忘れない
トラブル対応は、管理職だけでなく、実際に現場で対応したスタッフにも大きな精神的負担がかかります。
- 傾聴と労い:スタッフの気持ちを傾聴し、「よく頑張ってくれた」「大変だったね」など、労いの言葉をかけることで、精神的なサポートを行います。
- 情報共有とフィードバック:トラブルの経緯や対応状況、今後の進捗などを定期的に共有し、「自分たちは一人ではない」という安心感を与えます。
- 必要に応じたケア:ストレスによる心身の不調が見られる場合は、産業医やカウンセリングの利用を促すなど、適切なサポートにつなげます。
- 今回の教訓の共有:今回のトラブルから得られた教訓を共有し、今後の業務改善や再発防止に活かしていく姿勢を示すことで、スタッフの学びを促します。
「振り返り」と「記録」で未来のトラブルを防ぐ
トラブル対応が終わったら、必ず詳細な振り返りを行います。
- 原因分析:なぜトラブルが発生したのか、根本的な原因を深く掘り下げて分析します。
- 対応の評価:今回の対応は適切だったか、改善点はなかったか、別の選択肢はなかったかなどを評価します。
- 再発防止策の検討:同様のトラブルを二度と起こさないための具体的な対策(マニュアルの改訂、研修の実施、設備改善など)を検討し、実行します。
そして、これらのすべてのプロセスを**詳細に「記録」**に残します。
- トラブル発生報告書:日時、場所、内容、関わった人物、経緯、初動対応などを網羅します。
- 関係者とのやり取り記録:相手先との面談記録、電話でのやり取り、メールの履歴などを日付とともに残します。
- 内部での検討記録:対策会議の議事録、決定事項などを記録します。
- 対応の進捗記録: 解決に向けたアクションとその結果を継続的に記録します。
これらの記録は、今後のトラブル対応の貴重な資料となるだけでなく、万が一、法的な問題に発展した場合の証拠としても非常に重要です。
【特に注意】カスタマーハラスメントへの対応

近年、介護現場で増加傾向にあるのが、利用者やその家族からのカスタマーハラスメント(カスハラ)です。通常の苦情や要望とは異なり、不当な要求、暴言、暴力、セクハラ、威圧的言動などが含まれる場合があり、スタッフの心身に大きな影響を与えます。管理職は、以下の点を特に意識して対応してください。

記録と対話が大切!
状況と対応を記録して、話の材料とする。
本人・家族・ケアマネと対話をしていきましょう。
支援を受ける側のモラルも必要です。
カスタマーハラスメントの対応の参考にされてください。
職員の安全と心の保護を最優先に
カスハラは、対応する職員に多大な精神的負担を与えます。何よりもまず、ハラスメントを受けている職員の心身の安全を最優先に確保してください。必要であれば、業務から一時的に離す、別の職員を対応に当てるなどの配慮が必要です。精神的なケアとして、産業医やカウンセリングの利用を促すことも重要です。
組織として毅然とした態度で臨む
カスハラは、個人で抱え込ませてはいけません。事業所として組織的に対応する姿勢を明確に示しましょう。
- 明確な線引き:サービス提供の範囲を超えた不当な要求や、職員への暴言・暴力などは「ハラスメントである」ことを明確に伝えます。
- 複数名での対応:カスハラが疑われる状況では、必ず複数の職員で対応に当たります。管理職が先頭に立ち、必要に応じて男性職員の同席なども検討します。
- 初期段階での記録:ハラスメントの内容、日時、場所、関わった人物、発言内容などを詳細に記録します。録音や写真が有効な場合もありますが、相手の許可なく行う際は注意が必要です。
外部機関との連携を躊躇しない
事業所内での解決が困難な場合や、エスカレートする恐れがある場合は、速やかに外部機関へ相談することを検討します。
- 総合労働相談コーナー:労働問題全般について相談できます。
- みんなの人権110番:人権侵害に関する相談窓口です。
- 警察:暴力行為や脅迫など、犯罪に該当する可能性がある場合は、迷わず相談・通報します。
- 自治体のカスハラ相談窓口:東京都や福岡県など、自治体によっては介護現場のカスハラに特化した相談窓口を設置している場合があります。
- 弁護士:法的な対応が必要な場合は、弁護士に相談します。
サービスの継続・中止の判断も視野に
ハラスメント行為が改善されない場合や、職員の安全が確保できない状況が続く場合は、サービスの継続が困難であることや、最終的にはサービスの提供を中止せざるを得ない可能性があることを、冷静かつ明確に伝えます。ただし、これは最終的な手段であり、利用者さんの生活に直結するため、慎重な判断と、関係機関(地域包括支援センターなど)との連携が不可欠です。
トラブル発生前の「備え」が最も重要

トラブルはいつ、何が起こるかわかりません。しかし、事前に準備を整えておくことで、いざという時の冷静な対応と、被害の最小化につながります。管理職として、日頃から以下の「備え」を意識しましょう。

事前の備えはスタッフ全体で準備していきます。
その中で、スタッフの共有事項として
- 正確な情報の把握と伝達
を重要視しています。
対応フローチャートの作成と周知徹底
「トラブルが発生したら、まず何をすべきか?」を明確にした対応フローチャートを作成しましょう。
- 緊急連絡先: 警察、消防、救急、病院、協力医、法人本部、保険会社などの連絡先を一覧にし、誰もがすぐにアクセスできる場所に掲示・共有します。
- 報告経路: 誰に、どのような情報を、いつまでに報告するかを明確にします。
- 初期対応手順: 事故、体調不良、苦情、ハラスメントなど、トラブルの種類ごとの具体的な初動対応(安全確保、情報収集、記録など)をフローとして示します。
- 役割分担: トラブル発生時に、誰が何を担うのか(連絡役、情報収集役、対話役など)を明確にします。
作成したフローチャートは、職員会議や研修を通じて全職員に周知徹底し、定期的に見直しを行いましょう。
職員間の連携確認と情報共有の仕組み
トラブル発生時、職員間のスムーズな連携は不可欠です。
- 定期的な情報共有の場: 利用者さんの些細な変化、気になる言動、ご家族からの要望など、普段から情報共有を行う場(ミーティング、連絡ノート、チャットツールなど)を設けます。これにより、トラブルの予兆を早期に察知できることがあります。
- 緊急時の連携訓練: 事故発生時の模擬訓練などを行い、緊急時に職員が連携して動けるようシミュレーションします。
- 多職種連携: ケアマネジャー、主治医、看護師など、多職種との連携を日頃から密にしておくことで、利用者の状況やリスクに関する情報共有がスムーズに行え、トラブル発生時のサポート体制も強化されます。
事例の振り返りでの確認と学び
過去に発生したトラブル事例(他事業所の事例も含む)を定期的に振り返り、そこから学びを得ることが重要です。
- 「なぜ起こったのか?」「どうすれば防げたのか?」: 具体的な原因を深掘りし、構造的な問題や人的要因を洗い出します。
- 「あの時、どう対応すればもっと良かったか?」: 対応のプロセスを検証し、改善点や効果的なアプローチを検討します。
- 「今回の学びをどう活かすか?」: マニュアルの改訂、研修内容への反映、リスクアセスメントの強化など、具体的な再発防止策につなげます。
これらの「備え」は、単なるマニュアル作成に留まらず、職員一人ひとりのリスク管理意識の向上と、組織全体の対応力強化に直結します。
まとめ
通所リハビリの管理職として、トラブル対応は避けて通れない重要な業務です。しかし、適切な行動指針と準備があれば、どんな困難な状況も乗り越えることができます。
常に冷静に状況を把握し、迅速な報告と丁寧な対話を心がけ、特にカスタマーハラスメントに対しては組織として毅然とした態度で臨み、スタッフの安全と心のケアを忘れないこと。これらの積み重ねが、事業所の信頼を高め、利用者さんに安心を提供することにつながるでしょう。